【3/3】間男とやってた嫁は「間男との別れ話は済んだんだよ。あんたんとこに帰るって言ったら間男は良かったねって... だから、お別れの前に最後にもう一回って...」とのたまったw

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111 賢治:04/05/26 08:53 ID:Dha0E2IC
むしろこの耕司には同情さえしていた。
一緒に暮らしながら通代が風に勤めているのを黙認するような男でもあるがすべてみな通代に主導権があったからである。結局、数ヶ月後にこの男は生まれ故郷を出て逃亡してしまうのだがそれもこれも・・・あの通代に関わったからだ。

「ど、どうしたんですか!」
「ちょっと車の中ででも話そかぁ」
驚きながら、私の左手を見るのを放っといて外へと促した。
車の前で、血のたまった袋を手からはずし地面にはなすと
「バシャッ」と落ちて、ゲル状に固まりかけた血がドロッと袋から流れ出た。これ見よがしの演出であるが、この男に効果は充分であった。
気の小さなこの男はきっと、この後の話し合いに駆け引きを持ち出す余裕はもうないであろうと確信した。

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 賢治:04/05/26 09:13 ID:Dha0E2IC
「耕司、いいか俺が復縁を免れた以上、お前が後を引き受けるしかないんだぞ・・お腹の子供の事もよくよく考えて決めるんだぞ」
「な、なんとかならないですかねぇ」
「それを俺に言うのは見当違いだよ・・」
私が耕司の所に来た目的は今後について特に通代のお腹の双子が
気に掛かった事と他にもう一つあった。それは、耕司の口からハッキリと不貞であった事実を確認し証拠におさめておく事だった。
無論、あの人物に対しての対策としてである別れる事は了承したが、どんな因縁をつけて何を要求してくるのかまだまだ予断は出来ない。

「この後の会話は録音するけどな、落ち度がないと思っていた俺でさえこのザマだ・・もし後から嘘が発覚したらお前どんな仕打ちに合うかわからんぞ」

113 賢治:04/05/26 09:43 ID:Dha0E2IC
録音すると通告しているのだ・・もう少し言葉の選びようもあるだろうにと思う程、あからさまに自己弁護をするでもなく素直に、しかしオドオドと耕司は話をした。証拠物件としは充分すぎるくらいのものが手に入ったが・・ にも関わらず、何かしら釈然としないものが私の胸につかえた。

耕司との別れ際の会話は記憶にない・・。
気がつくと帰路の車にあり、朝からの出来事を思い返していた・・
元来、慎重な行動など性にない私が今回はよく辛抱した。
念の為の証拠収集など出来過ぎだと思った瞬間・・
「何やってんだ俺は・・・・」
急に情なくなり涙が流れた。
衝動にかられる様に先ほどの録音テ-プを取り出し、窓から投げ捨て携帯電話をとりあげた。
「耕司か、お前頑張れよ!双子の事もお前に任せたからな、頼むぞぉ!」

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 賢治:04/05/26 10:46 ID:Dha0E2IC
程なくして通代と耕司の二人は私の前から消えた・・
思いも掛けない事だが、あの人物のはからいである。
「もう、賢治の住む街にいるのもいかんなぁ」の一言で決定したのだ。

耕司の実家から帰った足で、左手の治療に向かった。
県立の総合病院はもう、受付時間をまわっていたが救急での受け入れをしてくれた。斜めにカットされた指を垂直に切り直し、その際に骨と肉片をそぎ落とすようにして皮膚だけを残す。そしてその皮膚をめくりあげ、傷口をふさいぐように縫い合わせる。
「折角残った部分も切り落とすのは、合点がいかないかも知れないけど ・・そうせざるを得ないようにしたのはあなただからね」

指紋が直角に折れ曲がり、平らになった指先を何度も見直しながら静岡の駅にむかった・・神戸に戻るあの人物の見送りである。

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 賢治:04/05/26 13:45 ID:RwW3Xbtn
「お前には割にあわん話になったなぁ、賢治」
「いえ・・・」
深く頭を下げながら
「叔父さんも身体だけは大事にして下さい」
ドアが閉まり、走り出してもホームを離れず小さくなっていく新幹線を最後まで見送った・・。 離れがたい思いがあった理由ではない、万が一誰かにその後の私の態度を見張らせていないとも限らないのだ。私は新幹線が見えなくなったのを確認した上に、わざとゆっくりゆっくり、思案深げな顔をしながら階段を下りた。駅の手洗いに入ってからも鏡の前に立ち、しみじみと自分の顔をみながら「ふうぅー」と必要もないため息を吐いた。そして個室に入り、頭の上をグルリと見回し足下の隙間も確認し誰もいない事を確かめて初めて、小さく拳を握りしめたのだ。
「終わった、終わったんだ・・」

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 賢治:04/05/26 14:11 ID:RwW3Xbtn
耕司が失踪した、と通代から連絡があったのは案外それから直ぐの事だった。
「それがな、こっちの病院で検診受けたらな、双子ちゃう言うねん」
筋書きのないのが人生であろうが、衝撃的な事実がそこにあった。
「心音がな、一つやないけど二つでもない言うねん・・三つ子やて!」

二人がこの街を出る際、耕司に私が言ったのだ・・。
「通代は一切、子供の面倒はみないぞ・・双子だしお前には相当の覚悟が必要だぞ」
事実私は年子であっても、ろくに寝る時間もない育児であったからだ。
それだけでも重圧に感じていたであろう耕司が、三つ子と聞いた直後に失そうしたのは無理もない事だ。情けない男だというよりもやはり、可愛そうな奴だというべきだろう。まだ堕胎出来る段階での失踪は、むしろ賢治なりの配慮ではなかろうか。
それが人としてどうなのかは評価してやれないが・・・。

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 賢治:04/05/26 14:34 ID:RwW3Xbtn
「それでお前は産むつもりはあるのか」
「産むのはエエねん、だけど育てられへんわ」
私は戸惑う事なく決断した、三つもの命に何をためらう必要があろうものか。
「じゃあ産め!産まれた後の事はこれから考えればいい!」