嫁の会社の社長夫人からいきなり嫁の浮気話だなんて驚く以外なかった。会ってみりゃ挨拶もなしに茶封筒に入った調査報告書なるものを手渡された。向こう様も相当キテいるようだ。

息子は小さく頷いた。
そして俺は嫁の顔を見た。
冷徹な嫁の視線がそこにあった。
(ほらね、結局こうなるのよ)と言いたげな勝ち誇った表情に、居た堪れなくなった俺は負け犬の様に離婚届をつかむとそのまま家を出た。
悔しくて情けなくて公園の公衆便所に閉じこもってひたすら泣いた。

翌日、実家に帰り、年老いた父に離婚を告げた。
すっかり涙もろくなった父はそれを聞いて目頭を押さえた。
可愛いがっていた孫にもう会えなくなると思ったのだろうと思うと、少しだけ離婚に踏み切った事を後悔した。
しかし全ては後の祭りだ。
だからといって嫁のところに頭を下げるつもりはさらさらなかった。
妹にも携帯で離婚を告げた。
憔悴しきった自分を見せたくないから携帯で済ませようと思った。

妹に怪しいと思っていたと言われて驚いた。
母の葬儀のときに手伝ってくれていた嫁が手が空いて、妹と一緒に何となく昼のドラマを見ていたそうだ。
それがちょうど社長と社員の不倫の話で、妹が「こんなこと現実じゃ怖くてできっこないよね」と言ったら、嫁の視線がちょっとだけ泳いだそうだ。
社長夫人といい、女の嗅覚は凄いんだと改めて思い知らされた。

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 名無しさん@おーぷん:2014/11/30()18:46:33 ID:Lkq
結局、全てが嫌になった俺は会社を辞めた。
全てリセットしたくて携帯も銀行口座も変えた。

後で妹から嫁が慰謝料を払いたいと言ってきてると連絡が来た。
俺が頑なに離婚を譲らないから子供と組んで賭けに出たのだと言っていたらしい。
妹が兄は行方不明だと告げると、自害してしまったのではないかと心配していたそうだ。
しかし今更そんな事はどうでもよかった。
とにかく俗世と離れたかった俺は当てもなく東北に向かい、最終的にそこに定住した。
月収11万の水道検診の仕事で何とか食いつないだ。
さすがにそれじゃ足りなくて日給10000円で水曜日だけボロアパートの管理人の仕事をすることにした。
老人ばかりのアパートで最初は辟易したが、住人が思いのほか俺を可愛がってくれた。
残ったおかずや使わない贈り物やらを俺にくれて大いに生活に役立った。
妹も気にかけてくれてフリマで見つけた服を俺に送ってくれたりした。
久しぶりに訪れた安穏の日々だった。

しかし残念ながらいいことばかりでもなかった。
父が町会の草刈の途中で倒れ、そのまま逝ってしまった。
多分、俺のことでの心労もあっのだと思う。

一応訃報は妹経由で嫁宅にも知らせたらしいが、嫁はともかく二人の子供も葬儀には顔を出さなかった。
父の葬儀のときに妹から嫁が副社長に就任していることを聞かされた。
社長が罪滅ぼしに昇進させたのかなと俺が言うと、社長側は離婚回避したのだから多分そうだろうと妹が言った、
社長夫婦が再構築したという話は初耳だった。
妹宅に尋ねてきたときに知らされていたらしい。

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 名無しさん@おーぷん:2014/11/30()18:46:53 ID:Lkq
ようやく落ち着きかけていた心が、再び怒りに侵食されていった。
生まれて初めて芽生えた激しい憎悪に夜も眠ることが出来なかった。
いよいよ我慢できなくなった俺は親友にそれを話した。
一連の騒動で俺に同情してくれていた親友は、復讐するなら協力すると言ってくれた。
もともと一人暮らしで物欲のない彼は、金も無利子で貸してくれるという。

俺はAさんに久しぶりに会う事にした。
A
さんは、復讐として某動画投稿サイトにタグを全くつけずに例の映像をアップするんだそうだ。
そして動画のアップ先を会社のメインクライアントのインフォメールに送信すると言う。

リスクは伴うが、訴えられる可能性は低いとアドバイスされた。
訴訟を起こすと知らない人まで話が広まる可能性があるから、大抵の場合は動画削除で話が終わるんだそうだ。

一発目の動画は目線にモザイクを入れて、親しい人以外には本人だと分からない様にする。
しかしその動画はすぐに削除依頼が来るはずなので、二発目の動画に引っかかり易いタグを付けて今度はモザイクなしで大衆の白日の下に晒してみようという事になった。
かなりハイリスクなので最低でも一千万は欲しいといわれた。
法外な額だが親友は金の心配はするなと言ってくれた。
俺は依頼要請し、仕事があるので再び東北へ戻った。

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 名無しさん@おーぷん:2014/11/30()18:47:13 ID:Lkq
数日後、Aさんから動画を打ち合わせ通りアップしたというメールが送られてきた。
正直、人を貶める事に慣れていない俺は激しく動揺した。
せっかく安穏の日々を手に入れた矢先に、あえて再び心がささくれ立つ事をする必要があるのかと自問自答した。
返ってけして消えることのない心の傷を負ってしうような気さえした。

三日後に妹から連絡が入った。
元嫁が血相変えて妹のところに駆け込んできたそうだ。
途方もない損害賠償を課せられることになりそうだから、居所を教えて欲くれないかと、掴みかからんばかりの勢いで言ってきたらしい。

妹は、例え連絡先を知っていたとしても、全てを失った今の兄にそれは何の脅しにもならないだろうと応えたそうだ。
親権まで奪わなければ兄もそこまでしなかったはずだという言葉で、嫁は諦めて帰って行ったらしい。

案の定、一発目の動画はすぐに削除された。
A
さんが直後に二発目の動画を発射しましたとメールを送ってきた。

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 名無しさん@おーぷん:2014/11/30()18:47:29 ID:Lkq
数週間後、Aさんから連絡が来て、社長夫婦が離婚訴訟沙汰になっていると聞かされた。
会社の経営も思わしくないらしい。

A
さんの調査によると、嫁の会社は増益を見込んで銀行から相当な資金を借り入れ、設備投資をしていたそうだ。
例の動画が知れ渡った事が原因なのかは不明だが、かなり契約社員の足切りが行われている様だと教えてくれた。