珍しく定時で帰宅した。玄関に鍵を差し込み捻るが手応えがない。婚約者が鍵をかけ忘れたのだろうと「ただいまー」と呼びかけながら部屋に入った。そこには全ネ果の婚約者がいて…

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」なおも繰り返される謝罪。

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 8502008/10/07() 20:28:40
夕飯が出来ていないことを謝っているのか?それとも電マでオナニーしていたこと?
逡巡に果てに一言。「何が?」突き放したようなトーンの声に自分でも驚いた。
彼女はハッと顔を上げる。双眸からはなおも涙がこぼれ続けている。
手で涙を拭おうと近づくと、瞬間、彼女は身を強張らせた。想定外の拒絶に戸惑う。

「何で?」拒絶されたショックに、この三文字を発するだけでいっぱいだった。
「だって……いつも残業で……二人で出掛ける事も減ったし……
 私といるより仕事してた方が楽しそうだし……ホントに結婚してやっていけるのかなって……
嗚咽まじりに続ける彼女を、成す術もなく、ただ見つめていた。
「エッチもしてくれなくなったし……毎日遅いし……
 きっと◯◯も……浮気してるんじゃないかって……
きっと俺も浮気してる?……俺も?なんで『も』なんだ?
「あの……俺、浮気してないけど?」意図せず口から出た言葉で、ようやく『も』の意味が分かった。

浮気されたんだ。仕事頑張ってる最中に、もう少しで結婚だっていうのに。
勃起していたはずにアレはいつの間にか萎んでいて、代わりに頭に血が昇り始めた。
ひとつ深呼吸。さて、どうしようか、と考えを巡らす。携帯だ。携帯を見よう。
電源が切れたまま放置されていた携帯を手に取る。電源を入れてみるが、入らない。
アダプタに繋げて電源を入れる。不在着信20件、受信メール5件。相手は全て同じ女性名。
最新のメールを勝手に見る。
[頼むから電話に出て。お願いします。]
振り返り彼女を見る。先ほど感じた艶かしさはどこかに消え、蒼白の顔が気持ち悪い。

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 8502008/10/07() 20:29:40
続けてメールを見る。
[風呂?とりあえず電話して]
[携帯、何回もならしてんだけど。何してんの?]
文章の馴れ馴れしさと、男っぽい素っ気ない文字のみのメール。
「何これ」彼女に問うわけでもなく、ひとりごちる。
「違うの!」何かを否定する彼女。「何が?」似た言葉を繰り返す。
「だから……」言葉に窮し、顔を伏せる彼女。しばらくの沈黙。

外も薄暗くなり、携帯を片手にカーテンを閉めていると、彼女の携帯が鳴った。
例の女性名がサブ画面に表示されている。着信音は聞いた事の無い曲。
彼女を見ると、がくがくと震えている。電話に出てみた。
『もしもしぃ。やっと掛かったwなにしてたんだよ?』チャラい男の声。
『もしもーし!あれ?掛かってるよな?もしもし?』
無言で電話を切る。彼女を見ると、怯え切った目でこっちを見ている。
「今のが相手?」感情を押し殺した声に、ビクッとなる。
「今のが相手か?」繰り返し同じ言葉を投げかける。彼女は微かに頷く。
「呼べ」携帯を投げ渡し、電話をかけさせる。「俺がいる事は言うなよ」
マンガのように無言でコクコクと頷く。携帯を操作し、電話をかける。
呼び出し音が2回鳴るか鳴らないかで相手は出た。

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 8502008/10/07() 20:30:53
『もしもしぃ!なんで切るんだよ!』相手は何故か怒っている。
「ごめん、携帯の調子悪くて」オドオドと言い訳する彼女。
『あ、そうなの?それより、さっき大丈夫だった?』
「うん……大丈夫」『いきなり気ぃ失うから、マジビビったよ!』
「うん、ごめん。もう大丈夫」『それよか、電マよかったっしょ?』
「うん……あのさ」『マジハンパなくイッてたもんな!』
「あのさ、今からウチ来れる?」『今からぁ?したりねーの?w』
「来れない?来て欲しいんだけど」『わーったよ!すぐ行くわ!』
「ありがとう待ってるね」『はいよー!全裸で待っとけよ!w』

相手の馬鹿男が無駄にデカイ声で、アホらしい会話を一部始終聞かされた。
沸々と沸き上がる怒りを彼女にぶつけたい衝動に駆られたが、なんとか我慢する。
「じゃあ、説明して」怒気を孕んだ声に彼女は怯え切っていた。

その馬鹿男は、友人の知人らしく、友人とランチに行ったら偶然あったらしい。
最初は三人で飯を食べたり、カラオケに行って俺に対する愚痴や相談をしていた。
ある日、パーティルームがあるホテルに誘われて三人で入ったが、
友人が親に電話で呼び出され、帰っていった後に【なんとなく】関係を持った。
それからは、ずるずると。部屋で何度かセックスをして、電マは今日出してきた。
してる最中に気絶したみたいで、そのまま放置されたらしい。

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 8502008/10/07() 20:31:47
一通り聞き出し、靴をシューズボックスに入れ、玄関近くの寝室で息を潜めて馬鹿男を待つ。
明かりを消した寝室で待っているうちに、何故か涙が止まらなくなった。
悔しくて、情けなくて。何より俺を信頼して娘を預けてくれた彼女の両親に申し訳なかった。
リビングで彼女の携帯が鳴る。「もしもし……うん……大丈夫、上がってきて」
おそらく『エントランスに着いたけど、部屋に行っていいのか』みたいな事だろう。

程なくして部屋のチャイムが鳴った。彼女がパタパタと小走りで玄関へ向かう。

鍵が開く音。ノブを捻る音。ドアが開く音。この音は今も鮮明に覚えている。
そして下品な声。「おーいw服着てんじゃんw」電話の声の主に間違いなかった。
「やめて」彼女のたしなめる声。俺が冗談で胸を揉んだりするとこう言われていたのを思い出した。

短い廊下を歩き、リビングのドアが開いた音が聞こえ、俺は寝室から音を立てずに出る。
リビングからは下品な声の笑い声が聞こえる。さっきの電話で沸き上がった怒りが再燃する。

リビングのドアを開け、男の顔を見る。大学の部活の後輩だった。
「あれぇ?◯◯さん、なんでいるんすかぁ?」間の抜けた声の質問。
後輩を無視して、彼女に訊く。「こいつ?」こくりと頷く彼女。