【8/8】妻は言った。「寂しくて寂しくて、誰かに求められたい、そんな風に強く思うようになった。あの男達に私はオモチャにされたんじゃないの、私がオモチャにしたのよ」と...

3日間昏睡状態だった妻は4日めに目を覚ましました

両親の関係が壊れ始めたころから その時点までのおよそ3年間の記憶を全て失って

医者の話では 耐えきれないほど辛い、自ら死を選択するほどの苦しみで心が壊れてしまわないように自我が記憶を封印してしまったそうです

ある種の自己防衛本能なのだそうです

妻が失った記憶を取り戻す可能性は かなり低いそうです、辛い記憶を取り戻すことを自我が拒否するから

でも うっすらと何かを覚えていたり、断片的に何かを思い出したりは することはあるそうです

私が目覚めた妻の病室を初めて訪れた時、そこには度重なる不幸な出来事と些細なすれ違いで心が壊れ夜叉に変身してしまう前の

そう、私が心から愛していた昔のままの妻がいました、

私に気がつくと うれしそうに何の屈託もない笑顔を見せて妻は言いました

484 621 jnlT2G0izQ 2008/10/04() 20:48:25

【心配させてごめんね、でも私いったいどうしたの?どうしてここにいるのか全然思い出せないし、誰に聞いても教えてくれないの】

【覚えてるのはね、私真っ暗な何もないところで一人でいたの、すごく長い間いたような気がする、でもそれが1日なのか1年なのか10年なのかはわからないの】

【とにかく長い間一人でぼうっとしてた、でね、ふっと気がつくと蝶が飛んでた】

【それが見たことないぐらい綺麗な蝶でね、私一生懸命追いかけたの】

【なかなか捕まえられなかったんだけど、一生懸命追いかけてやっと捕まえたって思ったら目が覚めてここにいたの】

【何か不思議な感じだけど悪くはないよ、今は幸せな気分、あなたが来てくれたからかな?】

486 621 jnlT2G0izQ 2008/10/04() 20:52:23
それから1年が経ちました、

今も私は妻と一緒に暮らしています

私はこれまで現在形で書いてきましたが、実際は1年前に私達が経験した事実を当時の私の日記をもとに時系列を現在に変更して加筆をして書いたものです

時々妻は何かを思い出しそうにふと宙を睨んだりしていますが、今のところ何も思い出さないようです

この1年の間、私は妻の記憶が戻ることだけをひたすら恐れてきました

あの忌まわしい3年弱の記憶を妻が取り戻すことがないように祈り続けてきました

妻が退院すると私はあのマンションに戻ることはしないで、妻と一緒に私の実家でしばらく暮らしました

両親には詳しい事情は一切話しはしませんでした

でも彼らは妻の様子を憐れんで、随分と気遣い優しく妻に接してくれました

当初 妻は いきなり自分が3年もの歳月の記憶を失っていることに、戸惑い不安そうに暮していましたが、周りの温かい反応に次第に安心して落ち着いていきました

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 621 jnlT2G0izQ 2008/10/04() 20:55:25
カメ及び客達とは その約一か月後に彼らが全員で私に一括で2700万を支払うことで示談しました

おそらく金回りがいい客が他の客の分も立替えて支払ったものと思われます

その金額が果たして高いのか?安いのか?今もって私にはわかりません、

ですが、正直その時点では すでに私は金など どうでもよかったし、カメや客達のことも もうどうでもよかったのです

ただ一刻も早くこの問題にけりをつけて、妻からこの問題を遠ざけたかった、ただそれだけです

愛する妻を忌まわしい過去から守りたい、その思いでいっぱいでした

結局 彼らは大きなダメージを受けながらも、私と戦う道を選択することは出来ませんでした

自らの人生がそれ以上のダメージを受けるのを恐れて

チキンレースは私の勝ちです

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 621 jnlT2G0izQ 2008/10/04() 20:58:16
あのマンションはすぐに売りに出しました、

今私は妻と二人で私の実家の比較的近くに新しく中古で購入した一戸建てに住んでいます

マンションとは違い狭いながらも ささやかな庭もあります

妻の母親もちょくちょく遊びにきてくれます

ジャックはしょっちゅう遊びにきます、当初は不思議そうに妻を見ていましたが

いまではごく普通に、なんのわだかまりもなく接してくれています

そして私は今は父の仕事を手伝っています

父は早く私にバトンタッチしたいようですが、まだまだ父には頑張ってもらうつもりです

なぜなら、もう私は以前のようにがむしゃらに働くつもりはありませんから

毎日なるべく早く家に帰り 妻と一緒の時間を過ごしています

不幸な出来事や、悲しい疑念、家庭を蔑ろにしてしまった報い、

そして いろいろな偶然も重なった結果、私は愛する妻を失ってしまいました

亡くなってしまった人、悲しみと絶望のあまり鬼に変わってしまった人は、もう決して元には戻らない、たとえどんなことをしようとも

実際それは真実でしょう、しかし奇跡は起こった、そう私は信じることにしました

もちろん色々な思いはあります、

でも今私の傍らにいるのは心が壊れ、薄汚く汚れてしまった妻ではありません

そうなる前の純粋で綺麗な心のままの妻なのです

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 621 jnlT2G0izQ 2008/10/04() 21:03:57
私は失ってしまった3年間をもう一度リセットして やり直す機会を与えられた、そう思っています

以前には してやれなかった旅行にも何度も一緒に行きました

毎日妻は幸せそうに、楽しそうに暮らしています、以前よりもずっと

私が仕事を終えて帰ると屈託のない笑顔で嬉しそうに私を迎えてくれます