【2/2】嫁は会社の上司と、以前から想いを寄せ合っていた。そして出張先でキスした。上司に何処かで休憩しようと誘われ、嫁は自分の意思で頷いた。
Aさんが常務に事情説明していたときに、えらく俺に同情してくれていたらしい。
何でもその人も平社員時に上司に付き合っていた彼女を奪われた経験があるそうだ。
結局、向こうの両親が介入してきて俺の両親の帯同も余儀なくされた。
嫁は断固として別れないの一点張りだった。
実は俺は少し悩んでいた。
やはり息子はまだ母親から離すのは早すぎるかもしれないと感じだしていた。
小4にもなると具体的な説明がなくとも子供なりに何となくなにがあったのか察するようで、嫁が何で家に帰ってこないのかあえて追求してこなかった。
嫁がいたときは賑やかだった居間が静まり返り、息子は自室に閉じこもってゲームと漫画で孤独を紛らわしているように見えた。
俺が率先して話しかけようとしても、必要以上に話してこようとはしなかった。
俺には必要なくても息子には嫁が必要なのかもしれないと感じはじめていた。
しかし俺がそれを切り出す前に義母から離婚になれば必然的に親権はこっちに来ると言われた。
気持ちが一気に冷えた。
場の空気も一気に凍りついた。
稼ぎもある、虐○をしていた訳でもない、俺は全てを失うのかと思った。
結婚してからの10年は徒労でしかなかったのかと酷く落胆した。
凄く惨めだった。
519: 名無しさん@おーぷん:2014/10/08(水)13:03:41
ID:Uyrbvm7Ol
向こうは一人娘、姓を継ぐ長男は喉から手が出るほど欲しいだろう。
結局俺はその手伝いをしただけの10年だったのかと思った。
義母にしてみれば嫁上司グッジョブといったところだろう。
しかしこっちにもプライドがあった。
司法がそう裁くならしかたありませんねと強がった。
もう後に引けなかった。
義母は不適な笑みを漏らした。
よっしゃ!という声が聞こえてきそうだった。
義父は同性という事もあり、俺の心情を慮ってか仏頂面を崩さなかった。
そこで母が「でも嫁子ちゃんは別れたくないんじゃないの?」と反撃に出た。
義母が「でも俺男さんの気持ちが固まってるようだから」と言い返した。
俺たちのせいで二人の友情関係にヒビが入ってしまったと感じた。
そしたら嫁が「お母さんは黙ってて」と言ったんだ。
義母はちょっと驚いた表情を見せながら「でもしょうがないでしょう?」と言った。
「仲裁に入ってくれると言ったから来て貰ったの、邪魔するなら出てって」と嫁が静かに言った。
義母がまだ何か言おうとするのを義父が「おまえは黙ってなさい」と嗜めた。
結局義父の、もう少し時間をおいてから決断を下すという提案でその場は収まった。
息子とは週末に面会という事で話はまとまった。
帰ってから俺なりに親権についても調べてみた。
たとえ嫁が専業だったとしても殆どのケースは母方に行くようになっていることを知った。
母親のDVで親権を取るのも至難の技だと知った。
DVを受ける子供ほど母親への依存心が強くなるらしい。
だから母親が育児放棄でDVだから父親になつくなんてのも嘘だと知った。
ネットでもてはやされてる逆襲話は殆どおとぎ話だという現実を知った。
冷静に考えてみれば男女の自害率や平均寿命をみても女のほうが男より遥かに強い生き物だ。
憂き目をみる殆どのケースは男と決まっている。
だからこそおとぎ話が持て囃されるのだろう。
つ最低く男は悲しい生き物だなと思った。
520: 名無しさん@おーぷん:2014/10/08(水)13:04:12
ID:Uyrbvm7Ol
週末約束とおり、嫁に息子を会わせた。
せっかくだから海に連れていった。
嫁は親権の話を一言も出さなかった。
子供でもちゃんと空気を察する様で、嫁と俺を仲直りさせるように必タヒに語りかけてきた。
健気だなと思った。
俺たちは以前の様な仲のいい夫婦を装った。
無邪気に波と戯れる息子を見つめる嫁の横顔を見た。
子煩悩な優しい母親の横顔だった。
やはり息子にとって必要なのは俺ではなく嫁なのだろうという思いが確信になりつつあった。
息子の気持ちを最優先で考えてあげなさいと言った母の言葉の重要性を理解した。
これ以上俺のエゴを通してはいけないと思い至った。
生きることは苦行だと思った。
俺はゆっくり砂浜に腰を下ろした。
そのままそこに横たわり、両手を広げて大の字になった。
静かに目を瞑った。
そうすれば大地と一体化して嫌なこと辛いこと全部忘れられる様な気がした。
しばらくそうして波の音を聞いていた。
息子が俺の胸に二つの砂山をこしらえて「胸!」と言ってはしゃいだ。
俺は笑ってそのまま息子に埋め立てられていくのを見てた。
お別れの時間がきた。
あれほど無邪気に遊んでた息子が泣き出した。
やっぱり無邪気なふりを演じてたんだと分かった。
嫁は困った顔をして「また日曜日に会えるんだから」と息子を諭していた。
息子は、やだやだ!と泣きながら嫁に縋りついた。
嫁も、ごめんねと言いながら泣いていた。
不覚にももらい泣きしそうになった。
いっときの感情の波に押し流されないように、何度も嫁と上司のキスシーンを回想しようと試みたが無駄だった。
目の前のむせび泣く母子の光景にわだかまっていた気持ちが急速に萎えていった。
嫁がやっとの思い出縋る息子から離れた。
捨て犬の様なションボリした表情で嫁が俺を見た。
521: 名無しさん@おーぷん:2014/10/08(水)13:04:27
ID:Uyrbvm7Ol
「分かったよ」
という言葉が思わず俺の口から漏た。
嫁が「え?」と聞き返した。
「子供には俺じゃなく君が必要だってことがよくわかった」
と言いながら、息子の口数が減って自室でゲームと漫画ばかり読んでる状況を正直に話した。
嫁は黙って俺の話を聞いていた。
「親権は譲るよ、当然養育費も払う、それでいいだろ?」
と言いながら「何だかこれじゃ俺の方がペナルティだな」と付け加えて、思わず笑ってしまった。
嫁が、お腹の調子が悪いって言ってたのは実は嘘だと告白したのはこの時だ。
二人目を授かったという。
正に青天の霹靂の告白だった。
「俺の子?」
思わず俺は聞いてしまった。
「身に覚えあるでしょ」と嫁、さすがにキッとなって俺を睨んだ。
それは上司にもあるんじゃないのかと俺が食い下がると、疑うんなら調べても良いと言われた。
「100%俺の子だけど」と言い切る自信に満ちた表情からその疑念は払拭された。
嫁は「何か勘違いしてる様だけど」と言いながら、上司との体の関係は一度もない事を強調した。
「ディープキスはしたけど?」
「すいません」
嫁は「お母さん頑張って!」の留守電を聞いてからの自分は別人だと何度も熱弁をふるった。
「じゃ、留守電がなかったらどうなってたんだろうな?」
の一言に嫁は沈黙した。
522: 名無しさん@おーぷん:2014/10/08(水)13:04:46
ID:Uyrbvm7Ol
「お母さんを許してあげて」と息子に言われてハッと我に返った。
息子の存在をすっかり忘れて話していた事に気づいた。
しばらく気まずい時間が流れた。
熟考した後、とりあえず子供がちゃんと育つまで同居って事でどうだ…という折中案を切り出した。
言いかける俺の言葉を遮って、「ほんと!?本当に!?」とさっきまでの沈んだ声から一転歓喜の声をあげた。
「だからあくまで同居って事でいいなら…」
「息子ちゃん!お母さんお家に帰って来ても良いって!」って、嫁が息子の手を取ってはしゃぎだした。
女の切り替えの早さ恐るべしだ。
俺の「いや、まだ許したってわけじゃ」って言葉なんかぜんっぜん聞く耳持たず、こうしちゃいられないって感じで義母に電話かけはじめた。
「あ、お母さん?俺さんが帰ってきていいって!」って、呆気にとられる俺をよそに
「そ~許してくれるって!」って嫁、矢継ぎ早に話しながら小躍りした。
ていうか許すなんて一言もいってないんだが…
「だからもう今日そっち帰らないから荷物送っといて!ごめんね!荷物着払いで良いからね!」

