【2/2】嫁は会社の上司と、以前から想いを寄せ合っていた。そして出張先でキスした。上司に何処かで休憩しようと誘われ、嫁は自分の意思で頷いた。
息子の気持ちを最優先で考えてあげなさいと言った母の言葉の重要性を理解した。
これ以上俺のエゴを通してはいけないと思い至った。
生きることは苦行だと思った。
俺はゆっくり砂浜に腰を下ろした。
そのままそこに横たわり、両手を広げて大の字になった。
静かに目を瞑った。
そうすれば大地と一体化して嫌なこと辛いこと全部忘れられる様な気がした。
しばらくそうして波の音を聞いていた。
息子が俺の胸に二つの砂山をこしらえて「胸!」と言ってはしゃいだ。
俺は笑ってそのまま息子に埋め立てられていくのを見てた。
お別れの時間がきた。
あれほど無邪気に遊んでた息子が泣き出した。
やっぱり無邪気なふりを演じてたんだと分かった。
嫁は困った顔をして「また日曜日に会えるんだから」と息子を諭していた。
息子は、やだやだ!と泣きながら嫁に縋りついた。
嫁も、ごめんねと言いながら泣いていた。
不覚にももらい泣きしそうになった。
いっときの感情の波に押し流されないように、何度も嫁と上司のキスシーンを回想しようと試みたが無駄だった。
目の前のむせび泣く母子の光景にわだかまっていた気持ちが急速に萎えていった。
嫁がやっとの思い出縋る息子から離れた。
捨て犬の様なションボリした表情で嫁が俺を見た。
521: 名無しさん@おーぷん:2014/10/08(水)13:04:27
ID:Uyrbvm7Ol
「分かったよ」
という言葉が思わず俺の口から漏た。
嫁が「え?」と聞き返した。
「子供には俺じゃなく君が必要だってことがよくわかった」
と言いながら、息子の口数が減って自室でゲームと漫画ばかり読んでる状況を正直に話した。
嫁は黙って俺の話を聞いていた。
「親権は譲るよ、当然養育費も払う、それでいいだろ?」
と言いながら「何だかこれじゃ俺の方がペナルティだな」と付け加えて、思わず笑ってしまった。
嫁が、お腹の調子が悪いって言ってたのは実は嘘だと告白したのはこの時だ。
二人目を授かったという。
正に青天の霹靂の告白だった。
「俺の子?」
思わず俺は聞いてしまった。
「身に覚えあるでしょ」と嫁、さすがにキッとなって俺を睨んだ。
それは上司にもあるんじゃないのかと俺が食い下がると、疑うんなら調べても良いと言われた。
「100%俺の子だけど」と言い切る自信に満ちた表情からその疑念は払拭された。
嫁は「何か勘違いしてる様だけど」と言いながら、上司との体の関係は一度もない事を強調した。
「ディープキスはしたけど?」
「すいません」
嫁は「お母さん頑張って!」の留守電を聞いてからの自分は別人だと何度も熱弁をふるった。
「じゃ、留守電がなかったらどうなってたんだろうな?」
の一言に嫁は沈黙した。
522: 名無しさん@おーぷん:2014/10/08(水)13:04:46
ID:Uyrbvm7Ol
「お母さんを許してあげて」と息子に言われてハッと我に返った。
息子の存在をすっかり忘れて話していた事に気づいた。
しばらく気まずい時間が流れた。
熟考した後、とりあえず子供がちゃんと育つまで同居って事でどうだ…という折中案を切り出した。
言いかける俺の言葉を遮って、「ほんと!?本当に!?」とさっきまでの沈んだ声から一転歓喜の声をあげた。
「だからあくまで同居って事でいいなら…」
「息子ちゃん!お母さんお家に帰って来ても良いって!」って、嫁が息子の手を取ってはしゃぎだした。
女の切り替えの早さ恐るべしだ。
俺の「いや、まだ許したってわけじゃ」って言葉なんかぜんっぜん聞く耳持たず、こうしちゃいられないって感じで義母に電話かけはじめた。
「あ、お母さん?俺さんが帰ってきていいって!」って、呆気にとられる俺をよそに
「そ~許してくれるって!」って嫁、矢継ぎ早に話しながら小躍りした。
ていうか許すなんて一言もいってないんだが…
「だからもう今日そっち帰らないから荷物送っといて!ごめんね!荷物着払いで良いからね!」
って、しかもきょうから戻るつもりなのかよと…
嫁、帰りの車に乗るまで俺の片腕にギュッとしがみついて離さなかった。
表情覗き込んだらまた口尖らせて怒ったような顔つきしてた。
彼女なりに必タヒなんだという事だけは分かった。
「訳あり物件」
「え?」
「君のあだ名」
嫁、あからさまに悲しい顔になった。
「でも、あなたが改修工事して直してくれたの、もう訳ありじゃない」
「上司とのこと、お義父さんとお義母さんも知ってたんだろう?」
「相手の事までは知らなかったと思うけど、道ならぬ恋をしていたのは察してたと思う」
嫁は、今じゃ何であんなに入れあげてたのか全然思い出せないと言った。
俺は、今でもあの日の事を思い出すと眠れないと言った。
嫁は謝りながら、今は7年の実績だけどこれから一生かけてあの頃の、のぼせた私と別人だと証明してみせると言った。
523: 名無しさん@おーぷん:2014/10/08(水)13:05:01
ID:Uyrbvm7Ol
女は切り替えが早い。
男みたいにセンチメンタルに過去を引きずったりしない生き物だ。
俺が嫁と分かれれば嫁はきっといつか誰かと一緒になるだろう。
そこで今回のことを教訓としてそれなりの幸せな家庭を構築していくはずだ。
指をくわえてそれを眺めているよりは、貸しを作って再構築する方が懸命だと判断した。
嫁上司から書面で謝罪を受けた。
何度も書き直して、最終的に本音を書こうと決断したという冒頭から文章は始まった。
自分が既婚でなければ、もっと早くに彼女と出会っていれば、自分のものになったのにという募る思いが、酔った勢いで出てしまったのだと思うと書いてあった。
それは俺はもちろん女房子供にも酷い裏切り行為だった、自分の至らなさを痛感しているというような内容だった。
仕事では自分をコントロールできるのに恋愛ではまるで制御できず、嫁が夢にまで出る有様だったから、いつか醜態を晒すのではと自分でも危惧していたらしい。