【2/3】間男とやってた嫁は「間男との別れ話は済んだんだよ。あんたんとこに帰るって言ったら間男は良かったねって... だから、お別れの前に最後にもう一回って...」とのたまったw

日韓共催のワールドカップの会場ともなった静岡県は翌年の国体も控え、商店街を抜けた先の橋は、それに向けて取り壊され既に新しい橋が出来上がっていた。
その新橋の手前の金物屋の前に車を止めた。

「こんにちはー」
「はーい」
「すいません、包丁が欲しいんですけど」
「どんな物がいいでしょか・・」
「あんまり、いい包丁って買った事ないんですけど今回は少し頑張って、いい物欲しいんですけど」

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 賢治:04/05/24 14:53 ID:+JXUbxdQ
はりこんで高値の包丁を選んだのは自分に対する敬意であった。
今日この包丁をどう使うかは、私の人生をも左右するのだ。

今朝貼り替えた紙が貼ってあるシャッターを、少し開けて仕事場に入った。真っ暗なところに、シャッターの下から入る商店街からの光だけが入ってくる。箱から出した包丁を右手にかかげ、確かめるように見回し次に左手の小指をまじまじと見つめた後、そっと唇にあてた。
「すまないなあ・・」
それだけは声に出してつぶやいた。
いよいよ、その小指を電話帳の上にのせると右手に持った包丁を思いっきり振りおろした。
ビーン!と指先がしびれた。

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 賢治:04/05/24 15:18 ID:+JXUbxdQ
転がった指先を見ると、ためらったが為に勢いが不十分であったのか、はたまた瞬間に目を閉じ包丁が斜めにあたったのか切り口は潔くなく、不細工だった。直ぐに拾い上げてその切り口を覗いた心配だったのはちゃんと骨まで切断出来ているかどうかだった。
爪は全てついてはいるものの、思ったより先端を切ってしまった。
骨は斜めに切断され、尾をひくように薄くのびていた・・
どうやら、包丁が骨の上で滑ったらしい。
「よかった、何とか形はついた」
とにかく、やろうと思った事はやったと切り落とした小指をハンカチに包んで胸ポケットにしまった。
その指はもう、冷たくなっていた・・。

「これでもダメな時は・・・」
そう思い包丁をタオルに包み上着の下に隠した。

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 賢治:04/05/24 17:24 ID:JG7KUS7a
激痛に目が眩みながらも、その場を後にしようと歩き出す。一歩足を踏み出すごとに、痛みが衝撃となって脳へと伝わってくる。痛みと緊張感から、鼓動は早鐘を打っている。呼吸もままならない。
猛烈な吐き気を催し、思わずその場に蹲る。
「駄目だ、立っていられない・・・」
一瞬意識が遠くなるが、指の痛みが私を現実世界へといざなう。
「立て、そして歩くんだ」
自分を叱咤しつつ立ち上がろうとするが、多大な精神と労力を必要とした。(指の痛みがそうさせるのか・・・いや)自問するそばから否定する。 それだけが理由ではないことを、私はとっくに理解していた。

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 賢治:04/05/25 08:26 ID:vS3CAMvu
「おはようございます」
玄関のドアを開けると奥の部屋からはあの人物が顔を出し
「賢治、お前どない・・・」
と言葉を出しかけた時、私の左手が目に入ったらしく一瞬黙った。
私は、この瞬間を逃してはとばかりに胸ポケットからハンカチの包みを取り出し、玄関の床に置きゆっくりと開いた。
「これで勘弁して下さい」
その人物が反応するまでには、間があった。

手仕事の私にとって左右の指は大切な商売道具である。
ましてや突発的な事故に依る欠損でもなく、私の意志で切り落として来たこの指を・・
「こんな物、何の価値があるんだ」
と踏みつけられた時の覚悟も出来ていた微塵の理性も保てずにきっと本能のままに振る舞う事になってしまうだろう。

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 賢治:04/05/25 08:50 ID:vS3CAMvu
左手を止血せずにコンビニの袋に突っ込み、血がたまったまま、ぶら下げて登場したのも狙い通りであった。指の先は大袈裟に出血する部位でもあり、通代のマンションに到着したに時は小さめの袋ではあったが半分以上の量の血がたまっていたのだ。
「血の袋に気がついた瞬間が勝負だな」
また実際に今、そのタイミングで虚を突いたまでは思い通りだ。
運命を握る、その人物の反応を待った。その反応次第で一連の流れに終止符が打たれるのか若しくはあらたなステージに発展するのかが決定するのである。心境としてはただ、スタートの合図からこの人物を圧倒すべくあらたなステ-ジの開始だけに集中した。

その人物は・・・
開いたハンカチの上にある小指に目を落としながら
「そうか・・」
と一言だけ漏らした・・。

106 賢治:04/05/25 09:09 ID:vS3CAMvu
「こんな事しか思い付かなかったんで・・」
と、更に反応を促すとついにその人物は
「もうエエ・・解ったわぁ」

私は即座に引き下がる事は「してやったり」を悟られるような気がして、わざとゆっくり言葉を置くようにこたえた。
「ありがとございます・・ 色々と・・お手数を、お掛けしました・・」
黙るその人物の前に、また丁寧にハンカチを指にかぶせて押しすすめ・・
「それじゃあ今日のところはこれで失礼します・・」
一礼をして下がると、ゆっくりドアを閉めカチャリと確認すると・・・
「ほぉおー!ふぅうー・・」
            ・・・・と大きく息をついた。

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 賢治:04/05/25 11:03 ID:vS3CAMvu
車を走らせながら次の目的地に向かった。
通代と暮らしていた男は数日前から実家にいるらしい。
静岡県内ではあるが、隣県との境にその実家はあり東西に長いこの県の中程に住んでいた私からは、少し遠出になった。
「あの人物の今の胸中はどうなんだろう・・」
100km程先の目的地に向かう車の中で私の起こした行動がこの先どう動くかを考えた。あの人物の胸次第で通代の意志を押さえる事は可能であろう。今時その世界の人達でもしなかろう私の振る舞いが、所詮
「ごっこ」で終わってしまうのか・・。
どこからでも因縁のつけようはあるだろうし、まだ油断は出来ないと自分に言い聞かした。それにしても前夜あの状況にありながら、包丁を持ったあの人物に対して・・
「手だけは勘弁して下さい!手は商売道具ですから」
と、前フリをして置いた私もふてぶてしいものがある。

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 賢治:04/05/25 11:20 ID:vS3CAMvu
運転をしていると、今まで経験をした事のない不思議な感覚が何度か襲ってきた。たとえて言えば非常に強い睡魔が来た時のあの、意識が 遠のく状況から眠さだけを除いたような感じである。眠さはないが、意識がすうっと浅くなりかけては我にかえるその繰り返しである。
「止血しようか・・」
そうも思ったが、このままで乗りこんだ時の迫力を想像するとそれも惜しかった。三十代も終わりに近くなった平成十三年の夏前・・
初めて経験する、出血による貧血であった。

道を知らず、尋ね尋ね車を走らせ目的地に着いたのは
もうすっかり昼をまわった午後であった。

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 賢治:04/05/25 12:27 ID:vS3CAMvu
通代の男の実家は東海道線の線路沿いにあり、古い軒並みの中に違和感なくその家はあった。
「こんばんはー!」
声を掛けると出てきたのはきっと、話に聞いていた実兄なのであろう、見知らぬ男性であった。
「森上といいますが、耕司さんいますかね・・」
穏やかな口調では言ったものの、私の左手に視線を向け
「ちょ、ちょっと待って下さいね・・」
と慌てて奥に戻るとその奥から
「森上さん?ウソだろぉー・・」
と言う声が聞こえて来た。
驚くのも無理はない、まさかこんな所に現れるとはという、思いがあるのだろう。しかし、痛い思いをした左手はハッキリと印象づけようと思いそのまま来たが、男に対して激高していた理由ではなかった。


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