【3/3】「高平の前でした事を俺の目の前でもやって見ろ。」彼女が驚いた顔をした。高平の玩具に成り下がっていた彼女を俺は許せるのか。自問自答を繰り返すが、答えは出てこなかった。


・・・しかし、ドアは開かなかった。

ポストへ向かった。
震える手でポストのつまみを掴む。
まるで怖いものでも見るかのように、ポストの中を覗き込んだ。
2
つ折りになったメモ用紙が見える。
そしてその上に私の部屋のカギが置いてあった。

453  良介  03/07/04 17:17 ID:sjh1JPwQ
メモ用紙を手に取り、開いた。
千春からの最後のメッセージがそこにあった。

ありがとう良ちゃん

カギを握り、部屋へと戻る。
私は携帯電話を握っていた。

アドレス帳には千春の名前は無い。
一番忘れてはならない電話番号を忘れた。
いや、アドレス帳に頼りすぎて、初めから覚えてなど無かったのだ。

458  良介  03/07/04 17:27 ID:sjh1JPwQ
アドレス帳から千春との共通の友達を探す。
千春を知る私の男友達は、千春の電話番号など知るはずもない。
そして私が知る千春の女友達の電話番号は私は誰一人として知らない。

千春の自宅へは行ったことが無い。
千春は両親と同居の為、会うのはいつも私の自宅だ。
どの町に住んでいるかは知っている。
ここから電車で大凡一時間の所だ。
しかしそこから千春の自宅を探しだすのは至難を極める。

それなら駅で待ち伏せしてみたらどうだろう?
通勤時間を狙えば千春は現れる筈だ。

しかし、千春が会社を退職している事に気づくまでそう時間は掛からなかった。

460  良介  03/07/04 17:30 ID:sjh1JPwQ
テレビの上に千春からもらった誕生日プレゼントの紙袋があった。
中身を空ける。中から新品の財布が出てきた。

私は高校時代から財布を変えた事がない。
就職して千春に何度となく変えるよう薦められた。
私の財布は、社会人が持つ財布ではないとの事だった。

私はもう使い古してボロボロの財布から、
千春がくれた真新しfい財布に中身を入れ替える。
入れ替えながら涙が止まらなかった。

462  良介  03/07/04 17:33 ID:sjh1JPwQ
ふと、千春が尋ねて来た時の事を思い出した。

良ちゃんのお父さんから聞きました。

千春は親父から聞いてこの住所を知った。

もしかしたら親父が何かを知ってるかもしれない。

465
  良介  03/07/04 17:36 ID:sjh1JPwQ
また親父が電話口に出た。

「千春から電話番号とか聞いてないか!?」
「誰だそれは?」

「この間親父が住所を教えた女の事だ。連絡先知らないか?」
「そんなの知る訳ないだろう。」

「・・そうか。」

「なんだそれだけか?」
「・・ああ。それだけだ。んじゃあな」

「何だお前は・・ああそういえば昨日その子から何か届いたぞ。
お前に電話するの忘れてたな。」

「それを早く言え!そこに連絡先書いてあるだろう!」

466  良介  03/07/04 17:38 ID:sjh1JPwQ
「ああそうか。でもそんなの取っといてあるかなあ。」

「早く探せ!」

「それが人に物を頼む態度か!」

「いいから早くしてくれ!」

親父は舌打ちして、乱暴に受話器を置く。
その様子が受話器を通して耳に伝わってきた。
遠くで母親を呼ぶ声がする。

親父が戻ってくるまでの時間が待ち遠しい。

467  良介  03/07/04 17:42 ID:sjh1JPwQ
「おう、あったぞ。」
「教えてくれ!」

私は親父が読み上げる千春の自宅の住所と電話番号を書き留めた。

「ところで何が届いたんだ。」

「ああ何かえらく高級なチョコらしいな、確かデコバとか言う・・」

ゴディバじゃないのか?」

千春は私をはじめ家族全員が甘党である事を知っていた。

「ああそれそれ。母さんが喜んでたぞ。
後で手紙書くって言ってた。お前からもお礼言っとけ。」

「わかった。悪かったな。」

468
  良介  03/07/04 17:44 ID:sjh1JPwQ
「用事はそれだけか?いいなら切るぞ。」

「親父」
「何だ」

「今度帰る時何か買ってってやる。何がいい?」
「めずらしいじゃないか、そうだな・・んじゃ万寿がいいな。」

「マンジュ?」

「久保田の万寿だ。酒屋に行ってそう言えば解る。」
「わかった。買ってくよ。」

「母さんの奴、最近徳用の焼酎ばっかり買ってきやがんだよ。
未だに酒と焼酎の違いが解ってない。
お前からも言ってやってくれ。」

「まあ仲良くやってくれ。んじゃあな。」

何も言わず親父から電話を切る。これが親父の悪い癖だ。
この3週間後、まるで親父に騙されたかの様に財布の中身から1万3000円が消えていった。

472  良介  03/07/04 17:47 ID:sjh1JPwQ
電話はしなかった。この日私は会社を休んだ。
直接千春の自宅まで向かった。
千春と同じ事をしてみようと思った。

玄関のチャイムを鳴らす。
しばらくして千春の母親が出てきた。

私は自分の名を告げ、千春を呼び出してもらった。
すると母親は微笑み、千春を呼びに行った。
千春の母親は全てを悟っているようだった。

千春は驚くだろうか?
あの日から5日間が経過していた。

474
  良介  03/07/04 17:50 ID:sjh1JPwQ
千春が階段から駆け降りて来た。
千春の部屋は2階らしい。

「良ちゃん?!」
千春が驚いていた。

「どうして?」
ジーンズに真っ白なブラウス。
ラフな格好だが、そんな姿が千春には一番似合っている。

デコバのチョコレート悪かったな。お袋が喜んでたそうだ。」

「ゴディバでしょ」

千春が笑顔に変わった。
皮肉にも2度に渡り二人を引き合わせたのは親父だった。

476  良介  03/07/04 17:55 ID:sjh1JPwQ
「こんな所まで・・電話してくれればそっち行ったのに・・」

「俺と同じ思いをさせてやろうと・・」

「上がって」

千春の部屋に初めて入った。
整理整頓という言葉が最も似合う、千春らしい部屋だった。
壁にかかるコルクボードは、私と千春の写真で埋め尽くされていた。
その全てが幸せの絶頂の二人を映し出していた。

やがて千春がコーヒーを両手に2階に上がってきた。

478
  良介  03/07/04 18:00 ID:sjh1JPwQ
「座って」
「あ、うん。」

「初めてだね。部屋入るの。」
「綺麗にしてるんだな。」

「私A型だもん」

しばらく沈黙した。先に切り出したのは私の方だった。

「ずっと千春の事を考えてた。」
「私も良ちゃんの事考えてた」

「やっぱり千春が好きだ。別れたくない。」
「・・・・・・。」

千春がうつむいた。

「彼女はいいの?」
「あんなの嘘だ。彼女なんかいないよ。」

千春が顔を上げる。既にその瞳には涙が溜まっていた。

479
  良介  03/07/04 18:02 ID:sjh1JPwQ
「私を許せるの?」
千春は涙声だった。
千春は私の前で随分と惨めな思いをした筈だ。
随分と傷ついた筈だ。
それでも千春は私を必要としてくれた。

「もう許すとか許さないとかどうでも良くなった。
千春が居てくれればそれでいい。」

「良ちゃん・・」

「一緒に暮らそう千春」

483  良介  03/07/04 18:07 ID:sjh1JPwQ
一年後・・

二人は千春の実家へ向かっていた。